アローゼンにみる医者の漢方に対する無責任さ

うちで苦労されて、やっと妊娠された方が、便通が悪くなったので、病院に行ったところ、アローゼンという下剤を処方されました。

その薬を飲むと便は出るようになるらしいですが、激しい腹痛と赤茶のオリモノが出るので、そのことを医者に伝えると、「気にする必要ない」とのこと。

医者の妊婦さんに対する便秘対応は相変わらずの神対応ですね。

アローゼンって原料がセンナなのですが、センナというのは漢方の生薬です。
そして、センナは大寒といって、体をかなり冷やします。
センナは、漢方では慢性的に使用してもらうことはありません。

急激に瀉下(排便)させる力が強すぎるので、使うのは緊急時。
そして、緊急時に半ば、無理やり排便させたあとは、センナから違う便を促す生薬や漢方薬に変えていきます。

漢方薬は「便秘だったら、この処方」というような病名や症状で合わせることがありません。
場合によっては、短期間でどうしてもセンナを使わないといけないケースもあるかもしれません。
しかし、それも飲んだ後に、飲まれたご本人から「激しい腹痛」、「不正出血っぽいもの出た」という訴えがあった時点で、センナを直ちに中止すべきかどうかを考えないといけないのです。
センナは昔は、あえて堕胎にも応用していたくらいなので、下手したら流産しています。
うちのような漢方専門のところで妊娠して、無知の病院で流産させられたら、たまったものではないですね。

この場合の「気にする必要はない」は無知からきた意見なのでしょう。
一般人なら無知で無責任だけで済ませていいのでしょうが、一応、医療人として公的な権威をもっているので、この場合の無知、無責任って放置していいものでしょうか・・・

そんな、愚痴は置いといて、なぜ、こんなお間抜けなことしてしまっているのでしょうか?

それは、漢方薬の捉え方が西洋医学と同じ考え方でしか捉えられていないからです。

西洋医学は簡単に言えば、平均の医学で大半の人に効果を現したかどうか?とその効果はどんな成分がどのような化学的な理屈で発揮しているのか?

この条件で薬の効果を考えます。
なので、薬の証拠となる臨床データを重要視し「100人の人のうち60人の人に効果があった、だからこの薬は効く」となります。(本当はもっとたくさんの人の臨床が必要ですが便宜上、わかりやすい数字にしています。これにプラス、効果の化学的証明が必要です。)

ところが、漢方薬は100人のうち60人の人に効いたから、よく効く薬。なんて理屈はどこにもありません。

むしろ西洋医学が平均的に大勢の人に効いた薬だとすると、漢方薬は、その人にしか効かない薬を選び出すことが原則です。
それが「体質に合わせる」ですね。
西洋医学と逆なんです。

でも、そのことが理解ができないのか、一応、その考えは理解しているけど、一から漢方を勉強する気がないのか、どちらかわかりませんが、(医者と話していると前者の印象)病院では、生薬や漢方薬を病院の薬と同じように「有効成分やたくさんの人に使った時にどんな効果があったのか?」という西洋医学の方法で使おうとするのです。

だから、センナは成分からしたら、ただ「瀉下させて便を出させる」という成分だけの単純な見方しかできなくなり、生薬本来の役割で書かれている大寒で妊婦や授乳中の人に禁忌という漢方をちゃんと勉強している人なら、ごくごく当たり前のことがわからず、かえって有害なことをしていたりするのでしょう。

昔、ツムラの社員さんと話した時に「医者は、大勢に効果があったとされる西洋医学的な臨床データを信用するから、漢方本来の個人の体質合わせるという理屈よりも、漢方薬でもこんな化学的データがありますよ。と化学的な臨床データをもっていったほうが、扱ってもらいやすい」と言ってました。
確か、この意見は、当時の社長さんも医者は化学的な臨床データしか信用しないから、化学的に分析したものと、ある病名にある漢方薬の処方を結びつけるマニュアル的なものを武器に営業してこいと言ってたのを聞いたような気がします。

手術後の癒着に大建中湯というマニュアル処方が代表的ですね。
今なら不妊症に当帰芍薬散なんかも入ってくるんじゃないですか。
どちらも漢方が重要視する「個人の体質」を華麗にスルーしています。

ただ、僕が不思議なのは、医者も、それほどバカじゃないんだから、漢方が2千年前から存在し、その漢方には、独特の診断方法や漢方薬の選び方があることに気づいたと思うのですが、なぜ、一から東洋医学的に勉強して、漢方薬を扱おうとせずに、今回のようにテキトーに処方するのか、そこが理解に苦しむところです。

なんにせよ、今回のようなケースは、うちでは日常茶飯事に患者さんから聞く事で、なんら酷い話でもありません。

要は、ほとんどの病院は漢方薬を扱っているけど、専門的な扱い方や知識は何もないという印象です。
病院で生薬系の薬や漢方薬を処方された場合は、一度、冷静に疑ったほうがいいかも。です。

では、どう気をつければいいのか?
いろいろ気をつける方法がありますが、一番、わかりやすいのは、その病院が漢方薬を選ぶためだけに全身の症状や全身の状態の問診をとったか?
ということと、その問診を詳しく理解するための話し合いのための時間を設けていたか?

この2つがないところは「実は漢方を西洋医学的な歪んだ知識でしか知らない医者」かもしれませんよ。
アローゼンの処方があまりに無責任だったので、書いてみました。