不育症のデタラメ漢方処方(当帰芍薬散)

うちの患者さんから電話がありました。
「不育症の病院で当帰芍薬散を処方されたのですが、飲んでもいいのでしょうか?」
という質問。

うちには、この手の質問がよくあります。

うちの患者さんの中でツワモノの患者さんになると、病院の待合室からリアルタイムに「今、病院が○○の漢方薬を処方しようとしているのですが、必要ですか?」みたいな電話もあったりします。
さすがにそこは、証(体質)も見ないで漢方薬をテキトーに処方しているとはいえ、あっちもプライドがあるので、こっちが焦ったりしますが。

でも、医者と話ししている時に電話を代わってもらえたら「なんで、その方に、その漢方薬?東洋医学的根拠は?」「どんな証(体質)だと見ました?」「ひょっとして、ただのマニュアル?」と問いただしますが、今のところ、なかなか、そんなおもしろい場面には巡り合えません。
将来的には、そんな電話も増えると、ブログのネタに事欠かないのではないかと期待したいところです。

うちの患者さんは「漢方薬は東洋医学で証(体質)を見て選ぶもの」
ということが染みついていて、うちの初回の問診でも全身の150項目以上だったかな?それ位の質問に答えているので、ほぼ何も問診しない先生から処方されたら、焦ると思います。(うちの問診は書くだけで20分かかります)

なんか、最初のテーマが飛んでしまいそうですが、よくある病院のパターンで「何の問診もなく」当帰芍薬散を処方されたようなのです。

その根拠は?
医学なので当然、根拠は必要ですよね。
ちなみに病院の薬だったら製薬会社が大枚はたいて研究したデータがエビデンスとよばれて、それが薬の効果の根拠になるわけです。

で、根拠はというと「とりあえず、血の巡りを整える漢方薬を出しときます」
要するに自分的には根拠なくマニュアルなのか、勝手にそう思い込んでいるのか、血の巡りを整えると言われているもの飲んでおけばいいんじゃない?的な感じでしょうか。

ちなみに不育症の西洋医学的な治療は、今のところ一択位しかなく、血栓をできなくするという治療でバイアスピリンとかバファリンを使うだけです。
僕自身は不妊症もそうですが、不育症も、そもそも両方ともに病気でなく、しかも一人の人間だけで起こる事ではないので、もはや、明確な原因を事実上、突き止めることが不可能だと思うのですが、それが、なぜ、流産の多い人は血栓と関係していると言い切れるのか?
そこが理論的、科学的に考えてもよくわかりません。

単純にご主人の影響かもしれないし、生活だってどんな生活送っているのかもわからないし・・・
不育症との因果関係なんて、本当に人それぞれだと思うのですが、誰でも同じ治療というのが意味不明に感じます。

で、漢方薬でもやらかしている感じですが、西洋医学では不育症は血栓ができにくくして血の巡りを整えるというガイドラインがあるわけです。

そして、当帰芍薬散ですが、確かにあんまり詳しくない漢方薬の本には、「血の巡りを整える」とか、「活血」するとか書いてあります。

ここからが漢方独特なんですが、漢方薬は血小版を減少させて血の巡りを良くするとか、血管を拡張して血の巡りを良くするとか、そんな直接的な効果はありません。
効果がないというか、そんな直接的な「効果」の考え方がないといったほうがいいでしょうか。

漢方ではざっくりと陰の駆瘀血、陽の駆瘀血というものがあります。
陰とは陰陽の影の部分で、白黒太極マークの黒の部分ですね。
陰は寒いとか弱いとかそんなイメージのものです。
陽はその反対、暖かいとか強いなどのイメージですね。

駆瘀血というのは、漢方では血の巡りの悪いことを瘀血とよびます。
駆瘀血というのは瘀血を取り除き、血の巡りを良くするということです。

詳しく見ていくと血の巡りといっても、もっと細かな設定がジャンジャン出てくるのですが、今回はこの2つをご理解いただけたらと思います。

当帰芍薬散に合う体質の人は陰の瘀血の人です。
当帰芍薬散の持っている調整作用は、温補、補血、利水、活血。
ごく簡単に説明すれば、温めて血を巡らせるのです。

これに対して陽の駆瘀血の漢方薬は、冷やして血を巡らせます。
ここで誤解されそうですが「冷やして血を巡らせる」と聞くと「私は足が冷えるから・・・」と思われるかもしれませんが、基本的に漢方では冷えているか?熱があるか?のどっちかという単純な見方はしません。

全体が冷えているという見方、足は冷えているけど、上半身は熱がこもっているという見方、お腹だけが冷えて後は普通という見方、いろいろな冷え方や熱のこもり方があるので、冷えているか?熱があるか?の単純な2つの見方では見ないのですね。

当帰芍薬散は、温めて血の巡りを良くしますが、この温補に血を増やす補血という調整の方向性もあり、この2つが合わさると体に熱をいれていくことになります。

だから、冷えて血の巡りが悪ければ、当帰芍薬散で血の巡りが良くなりますが、さっきの陽の瘀血だと、逆の治療になっちゃうので、余計に血の巡りは悪くなります。

そして、西洋医学と東洋医学を同一に考えることはできませんが、西洋医学が考えている不育症の原因である血栓ができやすいタイプは、漢方では、陽の瘀血であることが多いので、陽の瘀血として証(体質)を見た場合は、当帰芍薬散は逆効果になると思います。

そして、うちの患者さんは、ずっとうちで治療しているので、東洋医学的な証を把握していますが、僕は陽の瘀血と見て、治療してきています。
なので「当帰芍薬散を飲んでもいいでしょうか?」という答えは「絶対に飲まないでください。余計に悪くなります」ですね。

こういったケースは、逆治といって、漢方では危険な治療になるので、いくら「病名と症状だけのマニュアルでしか漢方薬を処方しない!」とはいえ、もうちょっと、漢方薬を漢方らしく扱ってほしいなと思います。