ありえない処方。妊婦さんの風邪に麦門冬湯

うちでは不妊治療だけでなく、さっきかかった風邪から10万人に一人になるといわれている後縦靭帯骨化症のような難病まで、いろいろな治療をやっています。

実際にどれくらい治っているかというと難病で阪大やら名だたる大病院の5年間の通院の中で、ほぼ良くなっていく体感がなかった人が、うちで1ヶ月目から良くなっていくのを感じている程度には治っているようです。

別に僕がいろいろできるってことじゃなくて、そもそも漢方は西洋医学と全く関係ないから婦人科とか皮膚科とか治療の項目が分かれていないからです。
漢方が始まった2000年前にその1800年後に全く違う地域で始まる西洋医学は存在すらなかったですから。

病院の漢方の扱いかたを見ていると東洋医学がうまく理解できないからなのかどうなのか知りませんが、西洋医学の病名や症状にあてはめてマニュアル的に選ぼうとするようですね。

そういえば、ツムラが病院に配っている漢方薬のマニュアルが婦人科で使う漢方薬とか、皮膚科で使う漢方薬とか、いちいち分けてますので、その影響もあるのかもしれません。
まー西洋医学の好きな先生から見れば、非常にまとまっていて使いやすいマニュアルです。
ただ、欠点は東洋医学(漢方)から、より遠のいているということですね。

そんなわけで、うちでは不妊治療しているけど、風邪やひどい腹痛をとりあえず治療してほしいとか、妊婦さんだけど蕁麻疹を治してほしいとかで、結構、いろいろな治療をします。
西洋医学的に言えば「科」をまたいで。

昨日も妊婦さんで風邪をひいてしまった人がとりあえず病院で抗生物質と漢方薬を出されたけど、一向に治らないどころか、ましにもならない上に「この咳は時間がかかるよ」って言われたのでうちに来られました。

処方された漢方薬を見たら麦門冬湯。
出ましたね。マニュアルの王道漢方薬。

僕はその方が不妊で悩んでおられた時から治療させてもらっていまして、その人の東洋医学的体質から咳を考えたら「麦門冬湯なんてありえない」って思いました。

漢方治療を真剣にやっておられる先生方からすると麦門冬湯なんて、おじーさん、おばーさんのひどい乾咳にしか出しません。(もちろん、体質によって変わりますが)
つまり漢方専門の先生方は処方したくても処方する体質の人が来ないのです。
おじーさんやおばーさんは病院の方が好きなので、ひどい乾咳だったら、間違いなく先に病院に行きますから。そこで色とりどりのお薬をたくさん貰っているはずです。
また、おじーさん、おばーさんでもなかなか麦門冬湯に適合する人がいません。

そんな感じでマニュアルで処方せずに体質を分析していくと麦門冬湯を処方する機会がありません。

病院にはお年寄りが多いので、その妊婦さんもその延長上で一緒くたに考えて麦門冬湯なのでしょうか。
抗生物質(風邪の治療でなく二次感染の予防)と麦門冬湯というマヌケな組み合わせに1mmのポリシーも感じない病院の治療はすごいですね。
これで適当に処方したんじゃなかったら逆にビビります。
適当にマニュアルで処方したのなら納得!ですが。

僕が漢方専門で相談をしているから言うんじゃないのですが「咳に麦門冬湯、麻黄附子細辛湯」とか「アトピーに消風散」とか「男性不妊に補中益気湯」とかあのマニュアルの組み合わせも不思議です。

何が不思議かって、僕らみたいな漢方の専門の先生で集まった時は皆がそれは「使わんやろ」って処方ばっかりだから。
専門だからって、ぶってるわけじゃないんですよ。
僕だけじゃなく他の専門の先生も同意見ですから。

体質を一切見ずにマニュアル処方するとしても、もうちょっと当たる確率高そうな漢方薬なんていくらでもあるのに。なぜか、一番当たらなさそうな「咳に麦門冬湯、麻黄附子細辛湯」「アトピーに消風散」「男性不妊に補中益気湯」なんですよね。

だから逆にこの処方してたら「あっ!漢方、知らないんだ・・ふ〜ん」ってわかるくらい。

話が逸れましたが、漢方って不妊治療とかアトピー治療とか、あえて治療をわける必要はありません。
だから、耳鼻科であっても漢方薬を処方してるなら、胃腸も診てもらってもいいんですよ。
「科」が違うとか言われたら「じゃあ、なんで漢方薬、処方してんの?」って聞いてください。

なぜわける必要がないかというとさっき言った西洋医学と時代も発展した場所も関係ないというものありますが、漢方の治療理念が個人、個人の体質に合わせて、体質全体を調整することによって治療するからです。

「痛みを止める」とか「排卵を誘発する」とか部分的な治療ではないのです。
排卵がしずらい経路を身体全体のバランスからみて調整し、排卵が自力でできるように促すのです。

漢方薬の効果は視床下部や卵胞だけに向かっていくわけではありません。
だから、こちらが狙ってなくても身体全体が調整されて不妊治療中でも膀胱炎が治ったり、不妊治療中でも蕁麻疹が治ったりもするのです。

その漢方薬を西洋医学みたいに特定の病気や症状に部分的な感覚で使っている病院の使い方は勿体ないし、エセ新薬みたいな使い方して、おもしろいのかなと思います。
どうせだったら折角、方向性も性質も違う東洋医学らしい使い方をすればいいのにと思うのですが・・・
不思議だ。