漢方薬はいろいろとたくさん飲んじゃいけない。

漢方薬って、たくさんの種類があります。
その種類の多さというのを人によって、いろいろな捉え方をするようです。

ある先生は漢方薬を西洋医学の薬と同じように考えて(勘違いして?)、冷えなら当帰芍薬散とか。
もっとひどいと不妊症には当帰芍薬散とか簡単(適当?)に処方します。

この時に病院なんで当たり前なのですが、漢方薬を病院治療のオプションのような位置づけで使っていることが多いようです。(これって不妊治療に限らず漢方専門病院じゃなかったら、どこもそうですね)
病院でクロミッドやらHCGやらをメイン治療でやってるけど、漢方薬もオプションで飲んどく?みたいな。

これに似たような質問が最近、メールによく来ます。
「今、当帰芍薬散を飲んでいますが、妊娠するためにもっといろいろ飲んだほうがいいですか?」

一般的に浸透している「間違った漢方の解釈」からしたら、いろいろ飲んでもいいと思います。
間違った漢方の解釈とは「不妊症」という病名(厳密には症候群)に対して、当帰芍薬散、温経湯を処方する。もしくは「冷え」という、ひとつの症状に対して当帰芍薬散を処方する。
この間違った解釈からしたら、症状ひとつずつに漢方薬を飲んでいけばいいので、ある意味、たくさん飲めますね。

現在は、残念ながら間違った漢方の考えが一般的になっているので、これが常識のように見えますが、漢方の本質からみると、これは全くのデタラメです。

漢方(東洋医学)が考える健康という定義は「中庸」、ニュートラル、ゼロ地点です。
ようは健康は真ん中状態であるということですね。

ひどく疲れていない人が強壮系のサプリメントを飲んで元気にパワーアップ!
これは漢方では、過剰、余分です。これも病気状態。
普通の考えだと「ま、過剰なパワーアップ要素分は放っておいても自然に使わないで消えるんじゃないの」って感覚があって「元気がないとか、すごく冷える」といったマイナス要素は自然に消えないから放っておいてはいけない。となりがちです。

だから特に身体に問題なくても、パワーアップ系サプリや薬などは、予防や保険を兼ねて飲んでても特に問題ない。みたいな感じがあります。
ホルモン剤やらなんやらを飲んでいても漢方薬はオプションだから問題なさそう的な。

しかーし、漢方にこの考えはありません。
未病を予防するという考えが漢方にはありますが、あれは「普段、元気な時から余分になんかパワーアップしておけ!」という意味ではなく病気じゃなくても、常に身体をメンテナンスしておきましょう。ということです。
「漢方でメンテナンスする」というのは「なんでも効果のあるものをいろいろ思い当たるだけ飲んどけ」という意味ではありません。

漢方では「プラスしていく=パワーアップ」ではないのです。
ひどい疲れや冷えなどマイナスの症状は治していかないといけない。しかし行き過ぎのプラスもそれが余分だったり、過剰だったりしたら、それも治さないといけないのです。

とにかく、一番いいのは真ん中。
疲れて意気消沈している状態でもなく、パワーアップしていきり立っている状態でもない。
中庸の穏やかな状態。

これが漢方の考える最も健康な状態です。

なので、病院のホルモン治療も漢方の深い理論から考えれば、必要なのかどうかを本来は考えなければいけません。
漢方薬がオプションではなく、本当にホルモン剤が必要な体質なのかどうか?
東洋医学の自然治療の観点からそう考えないといけないのが漢方です。

これは漢方薬の治療そのものにも言えることです。
冷えもあって、月経の状態も悪く、それで血の巡りも悪くって・・・だから当帰芍薬散も桂枝茯苓丸も温経湯も飲む。

これはプラスの方に悪くなっています。
今度は中庸に戻すためにプラスの出すぎた部分を治す必要が出てくるのです。

こんな時は病名や症状ごとに漢方薬を考えていかないで、現在の病名や過去の病気、身体全部の症状、生活環境など、ぜーんぶをひっくるめて、なるべく1つの漢方薬に行き当たるように考えなければいけません。

冷えてるから当帰芍薬散。ホルモンが弱いから当帰芍薬散。
そんなの漢方とは何の関係もないです。素人の漢方占いみたな遊びですね。

治療として考えるなら、全部の要素をひっくるめて、それを東洋医学的な理論で噛み砕いて、体質を分析し、それに合わせた漢方薬で治療するのが望ましいです。

そうやって、体質を分析している時に漢方では、可能性のあるいろいろな種類の漢方薬を候補として考えていきます。
さっきの話でいったら「いろいろ飲んだほうがいいと思った漢方薬逹」これらは付け足していくのではなく、この中から東洋医学理論から考えて合理的な理屈のつく漢方薬を1つだけ選ぶのです。
どれも飲んだら、中庸が崩れます。中庸が崩れるというのは、漢方では結局、不健康の道まっしぐら!

このたくさんの自分に合うかもしれない漢方薬を候補としてたくさん選抜し、そこから1つの漢方薬に絞りこんでいくことを「鑑別」といいます。
実は漢方治療の基本中の基本ですね。