不妊症の治療に使う漢方薬

今回は現実的な話しをしようと思います。

漢方薬は体質に合わせるものです。
不妊症というのは「そういった状態」を現しているだけで、病気ではありません。
また「不妊症体質」という決まった体質もありません。
不妊症というのは身体の状態を現しているのではなく、ただ単に「2年間できなかった人」これだけ。

漢方薬を使って不妊症を克服するというのは、その人の体質を見極めて、とにかく健康になるように調整していくということですね。

他の病気の治療などと、ちょっと違うところは、特に月経と基礎体温を中心に調整します。
人それぞれの体質に合わせて調整するので、不妊症に当帰芍薬散とか温経湯とかを何も考えずに処方するのではありません。

漢方治療の原則は、その人独自の体質に合わせることなので、体質を分析する前は全ての種類の漢方薬が候補と考えられます。
これは不妊症に限らず、アトピーやうつなど、どんな病気の治療でも考え方は同じです。

ですが、毎回、何百種類とある漢方薬を候補として考えていくわけではありません。
毎回、そんなに考えていたら、数が多過ぎて、いつまでたっても漢方薬を選ぶことができません。

どの病気でも、その人独自の体質に合わせていくという原則は変わらないので、理論的には全ての漢方薬が候補とはなりますが、不妊症なら全体の体質を整えることプラス特に月経周期やホルモンのことなどを考えます。

これらを考慮していくと特に不妊症的な人に使うことが多い候補処方というものに絞り込めます。

それが下の漢方薬群です。
当帰芍薬散、温経湯、桂枝茯苓丸、加味逍遙散、逍遙散、当帰四逆加呉茱萸生姜湯、キュウ帰調血飲第一加減、桃核承気湯、当帰建中湯、正気天香湯、大柴胡湯、芍薬甘草湯、六君子湯、柴芍六君子湯、四物湯、キュウ帰膠艾湯、当帰散、牛膝散、折衝飲、女神散、呉茱萸湯、大黄牡丹皮湯、通導散、ヨク苡附子敗醤散、竜胆瀉肝湯、六味丸、八味丸

28種類位ですね。
これに例えば、逍遙散と四物湯を合わせて1つの処方としたり、桂枝茯苓丸に紅花などの生薬を加えたて違う処方としたりといった組み合わせの種類がつくれますので、絞りこめるといってもまだまだ種類は増えます。

一般的に漢方って「一番最初に漢方薬を選びさえすれば、後は飲み続けてじっくりと効果が現れるのを待つのがいい」みたいなイメージがありますが、これは全くの誤解です。

病院では当帰芍薬散を処方して、良い効果どころか胃の痛みや胃もたれ、胸焼けなどの当帰芍薬散特有の副作用が出てるのに何ヶ月も処方しっ放し。みたいな意味不明な漢方処方をしているところがありますが、漢方治療とはそんなものではありません。

また⬆の処方群から苦労して体質に合わせて選んだとしても、それが本当に合っていて良いものかどうかは、飲んだ結果を見なければわかりません。

つまり、めっちゃ合っている!絶対に合っている!と考えて漢方薬を選んだとしても、現実は体質に合わなかったことなんて漢方ではザラにあります。
漢方の大原則はあくまで「合っていれば良くなる」といった結果論です。
だから、どんなにエライ先生だったとしても「この漢方薬で良くなるはずなのに・・・」はありえないのです。
これを言ってる先生がいたら150%漢方をわかっていませんので、注意してください。

合っているか?合っていないか?
これにも個人差があります。どこで線を引いて判断するかというと、僕は8年間の実際の経験からみると2ヶ月間、同じ種類の漢方薬を飲み続けて自分の考えた方針通りにいかなかったら、その漢方薬はその後10年飲み続けても無駄です。

さっさと変えたほうがよいです。
この期間も個人差、体質差なので、平均したら最長2ヶ月というだけで、基本的にはもっと短い期間で合っているか合っていないかをみていったほうがいいです。
うちの現実的な漢方薬の変更を検討する期間は慢性病なら2週間〜1ヶ月位までですね。
このときに気をつけないといけないのは、自分の気になる症状がよくなったかどうかではないです。

特に不妊症の場合は、冷えがとれたらOKなんて単純な世界ではありません。
冷えがとれたけど、基礎体温は低温期も高温期も高くなったみたいなこともあります。

漢方治療の目的はあくまで「総合的なバランス」をとること。
身体にある全部の症状、そして基礎体温も全部、ひっくるめて、うまくいっているのかをみていかないくてはいけません。
アッチが引っ込んだらコッチが出たではダメなんです。

そんな訳で先程の候補の処方群たち。
「不妊症だったら、その中から何か1つを選べばいいや」
というものではないということですね。

どの処方を飲むのか?
それを飲んで何がどうなったら合っていたものだと判断するのか?
それは続けたほうがいいのか?変更したほうがいいのか?

これらを常に考え続けるのが漢方薬を使った治療です。

更に現場のお話をすれば、治療戦略的に段階的に初めから漢方薬を変更するつもりであえて初めは違う種類の漢方薬を使って、刺激を与えて、その後の反応をみて漢方薬を変更したり、低温期と高温期の漢方薬の種類を交互に変更していったりするなど、いろいろな治療戦略の組み合わせがあります。

漢方では全てがケースバイケース。
なので、マニュアル的に何か一つを選んで、それを半年飲めば何かが良くなってくるだろう・・・そんな適当な医学ではないということですね。

「えっでも病院でテキトーに処方された当帰芍薬散で妊娠しましたよ!」
そんな人もいると思います。
漢方薬自体はちゃんと効果があるものですから。
同じ処方を出し続けていれば、かならずウマくいく方にも行き当たります。たまたま。
当たったのと同じ位の割合で体質と合っていなくてエラい目に合う可能性もあったのです。

こういうのを行き当たりばったりと言います。
それは博打であって、治療という知的な行為ではないですね。
漢方薬は医学理論に基づいた東洋医学の医療なのです。