不妊症でよく使う漢方薬の解説 「当帰芍薬散」

不妊症でよく使うと言われている当帰芍薬散。

別に病院のマニュアル漢方に対抗しているわけではないが、うちでは、当帰芍薬散で妊娠した人は、かなり少ない。
不思議なことに、ほとんどいないのです。

うちでは「不妊症で相談に来られたら当帰芍薬散出しとこ」みたいに事前に決めて処方することはありません。

どんな病気の方であろうと、うちでは40項目以上ある、体質判断表に記入してもらって、そこから体質を判断し、それに対して漢方薬を合わせているので、結果的に当帰芍薬散の体質の方がいなかったということになります。

ただし、うちはバリバリの日本漢方なので、うちで相談されてから、妊娠するまでに平均が6ヶ月としたら、トータルで5種類くらいは漢方薬が変わっていきます。

これは、初めに選んだ漢方薬が効かなかったからではなく、漢方薬を飲んで変わっていく体質や外の環境(気候)なども考慮して変えていってます。

話が横道にそれましたが、うちでは滅多に使わないけど、マニュアル漢方の病院ではよく使う当帰芍薬散の話です。

ちなみに漢方には、古方と日本漢方と中医学という治療や漢方薬の考え方の違いでの流派があります。

古方と日本漢方は、ほぼ同じなので、ここでは、日本漢方の考える当帰芍薬散と中医学の考える当帰芍薬散を解説したいと思います。

ちなみに病院の漢方の考え方は、歴史上の問題で中医学でも日本漢方でもない。中途半端な考えで処方されるようになり、曖昧な考えでされている先生が多いです。

当帰芍薬散

日本漢方では、薬性レベルは太陰病の虚証という位置づけ。
これを理解してもらおうと思ったら、かなり漢方薬の知識がないとダメなんですが、簡単にいうと、病が身体のより深い部分に入り始めたレベルで、どちらかというと体力のない人に使うものです。

当帰芍薬散が合う人の脈は、沈・軟弱・細小です。
また、舌は、淡白な白い舌で舌全体は濡れて苔はないタイプです。

お腹の状態は、腹力が軟で、上腹部に振水音がみられます。また、上腹部と比べると下腹部が冷えています。

日本漢方では、症状を1つずつあてはめるのではなく、症状と症状や症状や周りの環境などを組み合わせて考え、証という単位の体質の構成要素を分析します。

当帰芍薬散は、5つの証から成り立っています。

①血虚の証
②陰の瘀血の証
③水毒の証
④虚証
⑤血虚、水毒からの精神症状の証

上記のそれぞれ違う5つの構成要素が1つとなって、当帰芍薬散の体質を形づくっています。全く基礎知識のない人には、ちょっと難しいかもしれません。

①血虚の証とは、血が足りていない状態のことです。
西洋医学の貧血とは違います。
顔面の白さや経血やオリモノの状態、貧血傾向の症状などから、この証なのかどうかを調べていきます。

②陰の瘀血の証
血の巡りのことですが、血の量が少なく、まんべんなく巡らなくなっているような状態です。
月経前後、月経中の状態やお腹の張り、手足の冷えなどから調べていきます。

③水毒の証
水の巡りが悪くなっている状態です。
上腹部の振水音や手足、顔のむくみ傾向。腰痛、オシッコの回数や量、便秘、下痢などの状態から調べていきます。

④虚証
体力や抵抗力、精神力が弱っている状態のことです。
疲れやすさや声の感じ、気力などから調べていきます。

⑤血虚、水毒からの精神症状の証
①と③の証の影響によって、2次的につくられて証です。
めまいや肩こり、動悸、耳鳴りなどの状態から調べていきます。

ここで注意していただきたいのは、日本漢方では、症状がより多くあてはまったら、当帰芍薬散が合っているのではなく、症状を元に証を考え、次に証と証の組み合わせを考えて、体質を分析していきます。

占いのように症状を順にあてはめていくのではありません。

当帰芍薬散で出やすい副作用は胃痛や胃もたれです。

ある患者さんが胃痛と胃もたれがひどいとのことで、うちに相談にきました。

よくよく聞いてみると近くの不妊治療の病院でマニュアル漢方で当帰芍薬散が出されていたようです。

お話を聞くうちに、どうも当帰芍薬散を飲んでから、胃腸の状態が悪くなったとのこと。
なので、その当帰芍薬散をやめてもらいました。

そうしたら、1週間位で胃の痛みともたれが、なくなりました。

うちではこういったパターンの体質をみれずにマニュアルで漢方薬を処方している医者の尻拭いを何人かしています。

ひどい医者になると、当帰芍薬散を飲ませながら、胃腸薬を処方していました。
悪意なく無知から処方しているのでしょうが、仮にも医療のプロなので、こんな治療はどうなのかな?と疑問に思います。

当帰芍薬散は、補温、補血、利水、水毒と血虚からくる精神症状を調整し駆瘀血するという働きですので、マニュアル的には貧血や不妊症によく使っていますが、貧血や不妊症に使うのではなく、上記の「当帰芍薬散の働きが必要な体質」に使います。

古方では、当帰芍薬散は、
「妊娠中に腹が張るように痛む時は当帰芍薬散が良い」
と書いてあるだけ。

この条文と構成されている生薬の働きから、日本漢方は、今の条件をつくりだしていったんだから、すごいですね。

中医学的な働きも書こうと思いましたが、ちょっと長くなったし、僕は中医学的な使い方だと当帰芍薬散を体質に合わせることはできないと考えているので、また今度にでも書きます。