作用を強くするために力押ししても無駄

患者さんの方から「次回の採卵にかけているので、今回は、卵包がちゃんと成長するように、パワーアップするものにしてください」みたいに言われることがあります。

何回か採卵をがんばってきた人だったりしたら、僕の方も「次回こそは採卵できるよう、ここらでグッとパワーアップさせてあげたい!」
なんて思いますが、「あーそれじゃダメだ!」ということをすぐに思い出します。

当たり前ですが一般的な医学の感覚というのは、知らないうちに西洋医学的な感覚が刷りこまれているので、漢方治療をメインにしている僕でも、ついつい、後、一息で卵包が強くなりそうなら、「何かパワーアップ的なものを加えてみよう!」という単純バカ的な感覚に陥ったりします。

西洋医学は東洋医学から見ると、子供的な感覚や発想みたいなところがあって、「有効成分が濃かったり量が多かったら効果が高い!」とか、「いろいろ効果のある薬をたくさん使えば治りやすい!」みたいなところがあります。
多い!とか強い!が正義!!みたいな。

実際、病院の現場でも、ある病気が治りにくくなってくると、薬の作用が強いものに変えていったり、いろいろな種類の薬を複数、増やしたりしていきます。

ところが、東洋医学では「強い!」や「多い!」は正義でもなんでもなく、残念な事に治りやすくなるわけでもないのです。
むしろ、場合によっては、漢方薬を強いものにしたり、飲む量を増やしたり、漢方薬の種類を増やしたりするとかえって体に悪かったりすることが、よくあります。

僕はこれを勝手に「漢方治療はマイナスの美学が基本」と呼んでいます。
漢方治療の世界では、「より強い作用」「有効成分が多い」や「いろいろな薬を飲む」ことはプラスにつながらないのです。

なぜかというと、病院の薬は、薬の効果で強制的に体内の働きを変えて、その結果、症状を抑えたりします。
薬の有効成分の直接的な力で体内の働きを変えてしまうので、濃度を濃くしたりすれば、それだけ、体に強く作用します。
弱点としては薬が直接作用していますので、何時間か経って、薬が体から抜けていけば、体は元通りの悪い状態に戻ります。
だから姑息療法とか対症療法という、その場しのぎ的な治療になります。

一方、漢方は漢方薬の中の有効成分が直接的に体の働きを変えてしまうわけではありません。
漢方薬も有効成分を調べていますが、主成分などが解明されていません。
また漢方は西洋医学の理論で働いているわけではないので、主成分的なものがわかったところで、何もわからないのと同じなのです。

漢方薬は昔から続いている書物を読んでいけば、漢方薬の中の何かの主成分を効かせているのではなく、体の根源的な気、血、水、熱などの巡りや強弱を調整することが、本質的な治療だということに気づきます。

漢方治療理論では漢方薬の有効成分が体の中の肝臓をどうたら、こうたらするというような西洋医学的なことは何1つ言ってません。

体の中の健康時とは違うバランスを見つけ出し、それを元の状態に戻るように調整するのですね。
現在の体質を分析しないといけいないのは、こういった理由です。
だから、体が冷えすぎたら、温めるものでニュートラルに戻し、熱がこもりすぎたら、冷やしてニュートラルに戻し、血が巡りづらかったら、巡りを促してニュートラルに戻します。

「ニュートラルに戻す=体が良くなる」となります。
漢方の治療は陰陽マーク(白と黒の魂みたいなのが合わさって、まん丸になってる)が原則であり、基本なのです。

バランスをとることが治療の目的なので、パワーアップというのは「体内で余分にがんばらせる」というアンバランスにつながります。

漢方の治療の考え方は、「不足、弱い状態」も「過剰、強い状態」ダメなんですね。

結局、人間の体は、先天的な遺伝的な問題がない限り、何もアンバランスのないバランスのとれた状態に戻せば、勝手に治るように作られています。

なので、漢方治療では「パワーアップさせたい」「もっと強くさせたい」と考えた場合、より、どうやったら、過不足なく、真ん中丁度のバランスのとれた状態になるかを考えなくてはいけません。

病院やサプリの「より強く多く」することは、漢方ではアンバランスを作り出し、漢方的には病気を作り出していることにつながっていくのですね。

だから、良くしようと思えば、思うほど、効果が強くなるわけでもなく、量が多くなるわけでもなく、種類が多くなったりするわけではなく、ひたすら、「今の体質に合っている漢方薬」を探すことになるので、地味な治療にはなってしまいますね。