漢方薬をマニュアルで選んでも治らない理由
今、婦人科系の漢方治療の考え方や方法をある人に教えています。
この方、西洋医学の知識はそれなりに持っていて、ある質問をされました。
「更年期の方は要はエストロゲンを足せばいいの?それって漢方薬だったら何を使うの?」
漢方を知らない人ならではの素朴で良い質問です。
僕も漢方をほとんど知らない頃は、こんなふうな質問をしてました。
そもそも西洋医学と漢方は使用するお薬の違いだけでなく、病名や診断、治療の考え方自体が根本から違います。
そして、西洋医学は総じて、この「エストロゲンを足せば・・・」にあるように治療が「不足しているものを足せばいいんじゃね?」的な単純な発想しかないのです。
薬を足すか足さないか。
症状を止めるか止めないか。
ある成分が増えれば治る。
みたいな単純な理屈。
ところが人間の身体はロボットじゃないので、機械の油やガソリンを足すか、足さないかの2択ではないのです。
例えば、更年期もエストロゲンの大幅な現象がいろいろな症状の原因・・・と西洋医学ではされていますが、エストロゲンだけでなく他の女性ホルモンも関わっています。
つまり、エストロゲンだけを足せば問題解決じゃないのです。
だから、現にアメリカでは単純にエストロゲンを補充する注射などの治療は子宮がんを引き起こすリスクが高くなるという懸念があり、こういった単純な治療は危険だと警告しています。
人間の治療は体内の成分の量が足りているとか、足りていないとか。
ある臓器や組織の働きだけを活性化したり、遮断したりすればいいというものではありません。
更年期もホルモン系が影響する症状です。
詳しくみていけば不妊症もホルモン系が影響する症候です。
女性の月経などは大きく4つのホルモンが関係しています。
その治療の時に、どのホルモンが少ないか、多いかとか、弱いか強いかといった2択の単純な問題ではありません。
本来は、どのホルモンがどれくらい多いのか?少ないのか?
また、4つのホルモンはそれぞれ、どれくらいのバランスでないと互いのバランスをとれないのか?
それぞれのホルモンを強くしたり弱くしたりするのは、どのタイミングがよいのか?
ホルモンがいるか、いらないかではなく、人それぞれのタイミングや量など、3次元、4次元で考えなくてはいけません。
ようするに今の西洋医学は、2択という幼稚な選択性までが、現時点の西洋医学の限界なので、勝手に単純な原因にしているのですね。
時間的タイミングや個人差は、ほぼ無視。
そのほうが治療も単純です。
ただ足すだけみたいな。(良くなるかどうかは別として)
本来なら、先程のような3つも4つもある要素を更に個人差も考えていかないといけません。
だから、膨大な治験と計算が必要です。
おそらく、一人一人の専用のホルモン剤を開発しないといけないでしょう。
そんなことしたら、一人の治療費が何億円になりますけどね。
じゃあ、漢方はそれをしてるのか?
やってません。
そんな今から500年位必要そうな、そんな緻密な計算は漢方はしません。
そこは、個人の自然治癒力におまかせです。
逆に言えば、自分だけの自然治癒力は数億円に匹敵するほど優秀です。
だから漢方でやるのは、エストロゲンがどの時にどれくらい必要で同時にその時にプロゲステロンはこれくらい必要で、そのタイミングは・・・なんてことはしません。
元々、その人にとってベストなホルモンの活動っていうのがあって、それがいろいろな原因で、身体に問題が起きて発揮できなくなっているのです。
それをできるだけ100%近く発揮できるようにするだけ。
そのためには体内環境を整えるのです。
だから、漢方は全身の症状を聞いて体質を割り出し体質を整えるのですね。
「その人の治療は、その人の身体に聞け!」ですね。
おぉーなんか名言っぽい!
更年期にしたって、「いきなりエストロゲンが足りないからエストロゲン、ドバドバ足しちゃえ!」なんて病院みたいな幼稚な治療はしません。
まず、全身を整える。
そこから得た結果をみて、更にホルモンの物量を補っていくべきか、このまま体質の調整を続けていくかをみていくのです。
慎重に慎重に。その人の体に聞きながら。
自分がやってるから言うものなんですが、漢方って、治療の戦略やバリエーションから言ったら、いつも1つのターゲット(病的組織など)に1つの効果で対応する西洋医学よりも、はるかに高度な治療だと考えたりしてます。
あっ、ちなみにこういう風に質問に答えたら、「やっぱり漢方、できそうにないわッ!」って言われました。
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【このブログの著者】
まごころ漢方薬店 国際中医師 松村直哉
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2013年10月10日 7:46 PM | カテゴリー:漢方の事あれこれ